作品
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山口牧生(やまぐち まきお) 「ねそべり石」
能勢黒みかげ石
90cm×270cm×220cm
ほぼ直方体に近いかたちにととのえられた石をふたつ、下駄の歯状に並べる。
ひとつが220×90×90cm、約1.7立米、5トンの石である。
はたしてこの石は大きいのか小さいのか。人間の尺度をもってすれば、それは大きいといえなくもない。しかし人口の
砂浜とはいえ、サンセットビーチの広大な空間の中では、それはゴマつぶのように小さい。作品設置の場所として、わ
たしがここを選んだということは、この石の大きさの主張ではなく、逆にその小ささの検証であり、碓認なのである。
もとより人間もまた小さな存在である。小さいばかりでなくたちまちにしてうつろいゆく存在である。しかしその小さ
なたよりない人間が、大自然や宇宙と感応するのであり、荘厳な日没の光景をかたずをのんで見守って、しばしをそこ
に立ちつくすのである。そのことをわたしはつくづく不思議なことに思う。
輝かしい夏の一日人々はこの浜で水とたわむれる。海上遊泳に疲れて子供たちは、この〈ねそべり石〉によこたわり甲
羅を干し、あるいはあおむけにねてまどろむかもしれない。そのとき、子供たちはさきほどまでの水中にただよった感
覚と対比して、この石の不動のかたさ、たしかさを感じてくれるだろう。もしかしたら、人間のよって立つところの大
地のたしかさを、その背中や腹に感じてくれるかも知れない。
やがて夏が終り、この浜辺がひっそりとして人影もまばらになる季節、やはり西の海のかなたに太陽はますます荘厳に
輝いて沈んでゆくだろう。黄金にふちどられた雲はたなびき、海が金波銀波に燃えるとき、このねそべり石のよく磨か
れたゆるやかな凹凸をもつ上面もまた、夕日を反映してもうひとつの金波銀波に輝くだろう。
そしてこの平行にならんだふたつの黒い石は、周辺の白砂からきわ立って、空飛ぶ鳥たちの目に、小さいけれど鮮明な
マークとしてうつるだろう。渡り鳥たちは、隊列をととのえ、その航路をわずかに修正して、はるかな旅へと向かうだ
ろう。
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